焼き芋ファンと焼き芋屋さんをつなぎたい―。そんな思いで、スマートフォンなどのモバイル端末向けウェブアプリのサービスを開発している男性がいる。大阪市に住むプログラマー、高谷卓司さん(47)だ。移動販売でなかなか出会えないことも多い焼き芋屋さんの位置情報をみんなでシェアしあう仕組みで、その名も「焼き芋屋さんを見つけた人が地図でシェアするアプリ」だ。アプリに懸ける思いや、今後の展望について編集部がインタビューした。【さつまいもニュースONLINE編集部】
アプリの開発に取り組んでいる高谷さん
アプリの開発は5年ほど前に着想したという。
ある冬の日のことだ。仕事終わりの帰り道で寒さが染みたその日、高谷さんは、ふと焼き芋を食べたくなった。「あそこにならあるはず―」。いつも通うスーパーマーケットに足を向けた。店に着くと、確かにあった。しかも最後の一つだった。喜んで購入した。
帰宅して、買ってきた焼き芋をほおばった。何かおかしい。「どこか期待外れの味で、よく見ると見た目も変色していておかしかった」
翌日に再度、同じスーパーでリベンジと、焼き芋を買ったという。「2回目もやはり『ダメな芋』で意気消沈してしまいました」と高谷さんは振り返る。
この出来事が、高谷さんの遠い記憶を呼び戻すきっかけにもなった。「そういえば小学生のころ、地元の公園のそばとか、流しの焼き芋屋さんがよくいたことを思い出したのです。それが、最近ではいつのまにか『いーしーやーきいもぉー』の呼び声も聞かなくなったな、と」
ならば、と高谷さんはネットの情報を探し回ってみたという。そこで気が付いた。
「焼き芋屋さんの情報がほとんど見つからないんです。特に『流し』や『ポップアップ店(=イベント出店)』の焼き芋屋さんの情報が見つけられなかった。たとえ見つかっても販売を終えた後の情報で、いま、この瞬間、焼き芋を買いたいという人の役に立たない」
プログラマーで仕事柄、ITに長けた高谷さんはこのことに気づき、「これはソフトウエアで解決できるのではないか」との思いに至った。「焼き芋ファンと焼き芋屋さんをつなぎたい」。アプリの開発に向けて、歯車がコトリと動き出した瞬間だった。
その後、開発や改良を重ね、2020年秋に、ウェブ上で動作し、スマートフォンなどからアクセスできる現行の「焼き芋屋さんを見つけた人が地図でシェアするアプリ」の公開にこぎつけた。
アプリでは、「移動販売とポップアップ店」「専門店」「その他(コンビニなど)」ー3形態のお店の位置情報などを焼き芋ファンなどに投稿してもらう仕組みとした。それだけでなく、焼き芋についても「ほくほく」「ねっとり」「しっとり」を選んで共有してもらうようにしているこだわりぶりだ。
ただ、文字情報の投稿だけでは、虚偽の投稿でユーザーを混乱させてしまう恐れもあるため、アプリ上からカメラを起動して、写真を投稿してもらう仕組みを導入し、正確な情報の蓄積されるように努めている。さらに移動販売の焼き芋屋さんはいつも同じルート、場所で販売するとは限らないため、位置情報は当日のみ有効とするなど徹底している。
高谷さん自身も休日に焼き芋屋さんの店舗に足を運び、収集した店舗情報を自らアプリに投稿するなどしてきたが、「私がすべてのお店の場所を調べることはできないので、投稿してもらうことで焼き芋ファンの協力をいただいているかたちです」と高谷さんは語る。
焼き芋ファンと焼き芋屋さんをつなぎたい、その思いはさらに新たな目標につながる。現在のモバイル向けウェブアプリのサービスにとどまらず、より使い勝手をよくした専用アプリの開発だ。GPS情報も活用し、ユーザーのスマートフォンから一定距離まで、焼き芋屋さんが接近したらユーザーのスマートフォンに通知が出る機能などを実装しているという。より簡単に操作でき、よりタイムリーにより正確な情報が手に入り、何より焼き芋ファンが焼き芋屋さんを見つけやすくする―が高谷さんの掲げる理想形だ。
仕事以外の時間の大半をアプリの開発と、焼き芋屋さんの調査に充てているといい、「寝ても覚めても焼き芋一色の状態です」と嬉しそうに笑みを浮かべる。
焼き芋ファンと焼き芋屋さんをつなぐ、新たな専用アプリ。空前の焼き芋ブームとは言え、集客に苦戦している焼き芋屋さんにとっては商機拡大につながるアプリとなるはずだ。高谷さんは2023年中の発表を目指し、開発の日々を過ごしている。
※「焼き芋屋さんを見つけた人が地図でシェアするアプリ」は、https://app.yakiimoshop.com/