サツマイモ基腐病の現実と方策は?産学連携「SSP」が初シンポ


2018年に国内で初確認された土壌伝染性の病害「サツマイモ基腐病」を巡り、サツマイモ市場の現状や基腐病対策に向けた取り組みを報告する初のシンポジウムが20日、都内で開かれた。基腐病の知見集積などを目的とした産学連携コンソーシアム「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」(SSP)の活動の一環で、SSPを立ち上げた飼料・農業資材商社「welzo」(福岡市博多区)が主催した。酒造会社幹部なども登壇し、基腐病の影響による窮状を語った。【さつまいもニュースONLINE編集部】

[SSPとは?]特集 現場の声集め、産学連携の力で「サツマイモ基腐病」に挑む


南九州で起きている「危機」とは

シンポは「南九州サツマイモ経済圏で起きている危機とは? 日本最大サツマイモ生産地・最前線から緊急レポート」をテーマに実施された。


SSPの代表でwelzo取締役の後藤基文氏が進行役を務めるかたちで、「薩摩酒造」(鹿児島県枕崎市)取締役製造本部長の吉元義久氏、「小鹿酒造」(同県鹿屋市)常務取締役の児玉拓隆氏、東京大学発のアグリテックベンチャー「CULTA」(東京都渋谷区)社長の野秋収平氏が登壇した。


まず、基腐病が影を落とす昨今のサツマイモ市場の現状について解説したのは、後藤氏。全国のサツマイモ生産の4割を占める南九州(鹿児島、宮崎の2県)の被害に言及し、「焼酎原料用のサツマイモで危機が起きている」と強調した。


SSP代表の後藤氏

焼酎原料の最適品種として広く知られるコガネセンガンが基腐病の被害を多く受けているとして、「焼酎メーカーの生産量ベースで3500万本、売上高ベース換算で約300億円もの市場が失われた」とする推計について解説した。

そうした窮状に産学連携で知見を集積するなどして対抗していこうと、SSPを5月に設立。後藤氏は今後、①(圃場〔ほじょう〕※の)排水性の向上、②土壌の改良、③病害に耐性のある品種開発ーの3つのアプローチで取り組んでいくことも明らかにした。
※農作物を育てる場所のこと

生産現場は「耐え忍んでいる」

基腐病に抵抗性の高い品種の開発・育種に関心を示していたCULTAの野秋氏は、今なお基腐病を巡って解明されていないことが多い実態に言及。「品種改良といっても(国内初確認の2018年から)5年では難しい。土壌改良をはじめ、耐性のある品種に変えていく、連作をしない、などさまざまな取り組みで何とか(生産現場は)耐え忍んでいるという認識を持っている」と説明した。

CULTAの野秋氏

また、農家やサツマイモを扱う加工メーカーなどに思いをはせながら「品種を変えればいい、とは単純には言えない。(作り手にとっては)難しい部分もある」「酒造会社で蒸留、製造されている方からすると『コガネセンガンじゃないと』というところがある」と述べた。

農家の経営さらに厳しく

被害の実態や現状を報告したのは、薩摩酒造の吉元氏と小鹿酒造の児玉氏だ。

吉元氏によると、基腐病の影響から近年、調達を見込んでいた数量を下回る状況が続いているといい、「生産現場では昨今の原材料高騰も響き、サツマイモ農家の経営は厳しくなっている」と説明。

薩摩酒造の吉元氏

社として、行政の施策や支援の情報を提供するなどしてサポートをしているが、「農家の方々が高齢化しており、苦しい状況の中、離農も(広がるのではないかと)心配している。一刻も早く解決してほしい」と語った。

減産に直面、新たな課題も

児玉氏も予定数量のサツマイモを調達できなくなった状況に言及し、芋焼酎の減産に直面したことなどを語った。さらに調達できたサツマイモを巡っても、使用できない状態のサツマイモを取り除いたりする対応で歩留まりの低下や廃棄費用の増大などの課題も浮上したという。


小鹿酒造の児玉氏

吉元氏と同様に、児玉氏も基腐病や高齢化を理由とした離農への危惧を吐露。さらに「昔からサツマイモを作ってきたところでも、基腐病でサツマイモの生産が困難となり、他の作物に転換される農家も出てきている」と語った。

各氏が語る今後の取り組み

今後の対応について、児玉氏は焼酎造りを巡って「地元の人々の晩酌酒を造っているので、味わいを変えないように努力していく。ただ、現在は『コガネセンガン』が主体だが、『みちしずく』や『コナイシン』とか基腐病に抵抗性の高い品種を試験的にブレンドしてどうなるのかということも探ってもいきたい」と述べた。

吉元氏は「収穫を増やしたいという農家の方々とコミュニケーションを密にとっていきたい」と農家との連携にも言及。サツマイモ生産の要の一つである種芋対策で、蒸熱処理と呼ばれる処理の代行や、ドローンを使った農薬散布のサポートなど「できることはやっていきたい」と語った。

野秋氏は「『べにまさり』など一部で基腐病に抵抗性の高い品種が見つかっている。遺伝的な解析なども行い、時間はかかるが、スピードを出して品種改良に取り組んでいく。大学など協力できる機関などとの連携も図って共同で進めていきたい」と意欲をのぞかせていた。


「サツマイモ経済圏を守りたい」

基腐病を巡って、活発な議論が行われたイベント。後藤氏は「基腐病という問題の克服は、一農家や一会社では決してできない。多くの力や知恵を集めて、サツマイモ経済圏を守っていきたい。SSPをそういうコンソーシアムにしていきたい」とあらためて強調。

シンポを締めくくる後藤氏

また、基腐病の影響による生産現場の衰退については「離農が起きると(復帰して)元に戻すのは難しい。他の作物に転換が進めば、サツマイモを原料に使用する産業としては打撃となる。基腐病の対策と共にそうしたこともSSPとして考えて、できることをやっていきたい」と語っていた。

シンポ後には、会場で薩摩酒造と小鹿酒造の人気芋焼酎の試飲会も開かれ、シンポジウム参加者や会場施設の利用者などが楽しげにコップを傾けていた。

試飲会場の様子