2018年秋に国内で初確認された土壌伝染性の病害「サツマイモ基腐病」。第4次といわれるサツマイモブームが続く中、供給に応える生産現場に長らく影を落とし続けている。そうした中、飼料・農業資材を扱う商社「welzo」(福岡市博多区)が基腐病に関する知見を集めていく産学連携コンソーシアムを設立した。その名は、「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」。プロジェクトリーダーで同社取締役の後藤 基文氏に今後の活動やビジョンについて話を聞いた。【さつまいもニュースONLINE編集部】
みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-
「サツマイモ産業を支える知恵袋を」
――今回、コンソーシアムの立ち上げに至った経緯を教えてください。
当社で農業資材を販売する部門において2021年以降、農家の皆さんからの基腐病への懸念の声が多く聞かれるようになりました。当初から注視をしていましたが、「基腐病が蔓延してサツマイモがとれない」と具体的な窮状を伝える声まで届くようになりました。
農家をはじめ、サツマイモの流通・加工に関わる皆さん、そして我々のような農業関連の商社も含め、基腐病で多くの人々の仕事が脅かされることになると危惧しました。そこで、産業を支える知恵袋のようなものをつくることはできないかと考えるようになり、今回のコンソーシアム設立に至りました。
――基腐病を巡っては、国や地方自治体、大学、大手酒造メーカーなどがそれぞれ対策の検討や研究にあたっています。そうした中、御社がコンソーシアムの運営に取り組む意義や強みをどのように考えていますか。
我々は農家の皆さんに肥料や農業資材などさまざまなアイテムを販売していますが、それが好ましいものでなければ当然、厳しい声をいただくことがあります。逆にいえば、農家の方々から率直な声をスピーディーに聞くことができる存在だと思っています。
さらに全国で農業指導を行う子会社もありますので、北から南まで現場の声を聞きながらアイデアを提案して取り組むこともできる。そうしたネットワークを生かし、皆の知見、知恵を集め、活かしていけるのではないかと考えます。
多くの組織や農家がコンソーシアムに賛同
――設立にあたり、九州大学や酒造メーカー、鹿児島の農家など既に多くのパートナーが集っています。現状について教えてください。
多くの組織や、個人の農家の方々が趣旨に賛同してくださっています。九州大学の生物土壌学研究室の皆さんには土壌分析などで協力をいただく予定です。また、東京大学発アグリテックベンチャーの「CULTA」にも基腐病に抵抗性の高い品種の開発・育種などに関心を持っていただいています。農家の皆さんからや酒造メーカーを通じて現場の声も数多く集めていきたい考えです。
今のところ、基腐病に特効薬はないと考えます。ですが、例えば既存の防除法以外にも土壌改良剤など、基腐病に対抗する選択肢を現場で試してもらい、その効果検証を行い、さらに効果的な対策を見定めていく、といったようなサイクルをまわしていくことができたらと期待しています。
――今後、どのようなかたちで活動を進めていきますか。
コンソーシアムは「分野を横断した知見の集約」「防除法の研究・発信」「基腐病への抵抗性の強い品種の開発」の3つを活動の柱に据えています。いずれも一方的に発信していくだけでなく、多くの組織や個人を巻き込みながら、基腐病に対抗していく力を大きくしていきたいです。ひいてはサツマイモ経済圏を盛り上げるかたちにつながるとも考えます。
その意味では、活動にゴールはないと思っています。基腐病だけでなく、農家の高齢化や離農などの複合的な問題を背景にサツマイモ生産は厳しい状況が続いています。サツマイモの生産から加工・流通、消費の各現場がサステナビリティ(持続可能性)を担保していくにはどうすればよいか。それらを考えるコミュニティのような場にもなっていければと考えます。
サステナブルな農業の今後も模索
――サツマイモ経済圏を盛り上げていきたいとの思いもうかがいましたが、最後にサツマイモ業界のさらなる発展に向けたお考えを聞かせてください。
サツマイモは食料自給率も高いですし、過去も現在でも国民食だと思っています。とりわけ近年はサツマイモブームで需要がしっかりあるということは、業界にとって大きなプラスになっている。消費者の皆さんには、基腐病と向き合う生産現場の現実を知ってもらいつつも、今後もおいしく楽しく、サツマイモや加工品の消費を続けていただき、サツマイモ経済圏を支えてほしいと願っています。
また一方で、現在のブームを終わらせないためにも基腐病の問題をはじめ、農家の皆さんがサステナブルに取り組んでいける生産環境の重要性が高まっていると思います。単に生産量を確保していくだけではなく、さまざまな変化への対応も必要と思います。基腐病を乗り越える道筋を模索しつつ、グリーンな栽培技術の普及や健全で肥沃な土壌の再生などといった課題についても農家の皆さんと共に考えていきたいと考えています。