連載「家で焼く」“定説”160℃90分は本当か〔下〕蜜はしっかり出たが食感の違い露わに


 家庭用オーブンの160℃で90分――。家で焼き芋を焼き上げようとする際にインターネットのレシピサイトや、レシピアプリでよく見かけるのが、この設定だ。この「定説」は本当か。一般的なスーパーで購入できる茨城県産「紅はるか」を使用し、検証した。さらに同じ160℃で、120分や150分の焼き上げも行い、比較してみた。完結編の今回は焼き上げ時間による食味や食感の違いを報告したい。【さつまいもニュースONLINE編集部】

 前回の連載〔上〕では、家庭用オーブンの160℃設定で、90分、120分、150分で焼き上げるところまでをお伝えした。3つのパターンのうち、最も焼き時間が長い「150分」のイモから試食していった。

160℃で90、120、150分の3パターンを焼き上げた

 まず「150分」のイモは、包んでいたアルミ箔をはがした瞬間、イモの蜜がつぅーと滴り落ちた。イモの皮もすっかり蜜で湿っており、ほおばると、スイートポテトとまではいかないが、それに近いやわらかい食感に仕上がっていた。

蜜がこぼれるほどに仕上がった150分のイモ

 蜜たっぷりの皮は甘く香ばしく、はがすことなく、そのまま食べ進められた。

 身近に買えるイモをいかに美味しく焼いて食べることができるか――をテーマとしているため、価格の安い「訳あり品」を選んだ。そのためサイズもまちまちで、150分のイモは直径7~9センチほどと用意した中では太めだった。

 にもかかわらず、しっかりとやわらかく、ねっとりと仕上がった。160℃以外にさらに最適な温度があるかもしれないが、少なくとも長く焼くというのは、焼き芋を焼く上では有効なアプローチの一つといえそうだ。

■150分と違いが出た「120分」その食感は

 続いて、「120分」のイモだ。こちらのイモは、150分のイモと同じく直径7~9センチほどの太さだったが、見事に違いが出た。

皮の弾力は残った120分のイモ

 というのも、150分のイモは指で表面を押すだけでずる向けにはがれてしまうほどに皮が蜜に浸っていたが、120分のイモは皮が蜜で湿ってはいるものの、皮とイモ本体がくっついていた。食感も十分柔らかいながらも、ねっとりとした中にもホクホクとした感じが残っていた。

 皮とイモ本体がくっついてるので、嚙んだ時にイモ皮の弾力が感じられた。ただ、このレベルのやわらかさを好む人も多いのでは、とも考えさせられた。

■ネットで「定説」90分の仕上がりは

 最後に試食したのが、今回の最大のテーマである「90分」のイモだ。

ねっとり柔らかに仕上がった90分のイモ

 先の120分、150分のイモよりも細身で熱も通りやすかったか、皮はやはり蜜でしっかりと湿っていた。アルミ箔を手にした時点で、継ぎ目から蜜が漏れ出ており、手がべたつくほどだった。

 ただ、食感はというと、120分と同じようにイモ本体はねっとりと柔らかいながら、皮の弾力はやや残るほどだった。120分のイモと同じく、150分ほどのねっとり感には乏しかった。

 とはいえ、噛めばすっと歯が入り、すんなりと食べられる柔らかさだ。今回は細身を使用したが、太めのものを使用すればさらにホクホク感が残るだろう。しかし、なるほど、ネット上で「失敗しにくい」温度・時間設定として、頻出することに納得感はあった。

 当然、蜜が出るか、ねっとりとした食感になるかは、品種による。今回はスーパーで購入できた「紅はるか」を使用したが、家庭用オーブンでやわらかくて蜜に浸った芋を食べるのに、「160℃ー90分」の組み合わせで一定の結果が得られるとは言えそうだ。太めのイモで、ねっとり感を追求したいなら、160℃の温度のまま120分、150分と焼き上げ時間を延ばしていけば、十分、蜜にまみれた甘い芋が家庭でも食べられるのではないか

■低温で焼けばさらなる「最適解」見つかるか

 今回の検証では160℃をキーとなる温度として、焼き時間の違いによる変化をみた。ただ、サツマイモの特性上、甘さを引き出すとされる酵素「β-アミラーゼ」の活性を促すには、70℃程度の低温で安定して長時間加熱するーというアプローチがあるとされる。本連載では今後、「低温ー長時間」の組み合わせでも、家庭でのイモの焼き上げの「最適解」を模索していきたい。