いきなり団子がクラフトサケに!「おいもとあずき」ができるまで


おイモ好きが高じて、九州の醸造所とサツマイモをテーマにした「クラフトサケ」をつくったバーがある。東京都杉並区の「西荻窪 日本酒バー へなちょこ」だ。取り組んだのは、熊本県の郷土菓子で、小麦粉の生地でおイモと小豆あんを包んだ「いきなり団子」を再現した、その名も「LIBROM おいもとあずき ~いきなり団子仕立て~」。黄金色したおイモのお酒はなぜ、どのようにして生まれたのか。誕生の舞台裏を、同店オーナーの篠山可南子さんに聞いた。【さつまいもニュースONLINE】

故郷の慣れ親しんだ味、お酒で表現

――日本酒の新たな潮流として、クラフトサケが注目されています。そうした中、今回、その原料としてサツマイモを採用したのはユニークな取り組みですね。

おイモのお酒というと、代表格は芋焼酎と思うのですが、今回、クラフトサケというアプローチから、新たな提案をしたいと考えました。クラフトサケの一つの手法として、日本酒の伝統的な酒造りに副原料を加えるものがあり、その手法により、新たな味わいを表現しようという試みでした。私はバーのオーナーですので、お酒の企画やイメージの考案に知恵を絞り、酒造りは福岡県にある醸造所「LIBROM Craft Sake Brewery」(以下、リブロム)さんに依頼しました。

リブロムさんは、地元の素材を生かした新しい酒造りに若い人たちが奮闘している、比較的、新しい醸造所です。彼らと同じく、私もお酒に関わる生業をしているので、一緒にものづくりができたら、という思いが元々ありました。協力が得られることになり、今までにないおイモのお酒づくりのチャレンジをスタートさせることができました。


――そもそも、なぜサツマイモを使おうと思ったのでしょうか。

夫や子どもたちを含め、家族全員がおイモ好きだったというのがあります。休日に家族で芋掘り体験に出かけることもありますし、私の故郷は熊本県なので、帰省した際には、おイモを使った郷土料理の「いきなり団子」を親と私、子どもの3世代で手作りします。そんな身近で慣れ親しんだ、大好きな食材なので、酒造りに使ってみたいと思いました。

加えて、夫の助言もありました。夫は趣味として、九州を拠点に活動する「ばってん少女隊」というアイドルグループを応援しています。その中で最も推しているメンバーがおイモ好きで知られる希山愛さんで、その出身地がリブロムさんの醸造所のある福岡県ということからも縁を感じ、サツマイモがいいんじゃないかというアドバイスをもらいました(笑)

いきなり団子仕立てにしたのは、おイモ単体よりかは小豆の要素も加えた方が、より今までにないお酒を目指せるのではないかと考えたからです。そのため、出来上がった商品の名も「おいもとあずき」としました。

飲むタイミングで味わい変わる生酒に

――では、実際にどのように酒造りは進められていったのでしょうか。

スタートしたのは、2023年の春ごろからです。リブロムさんが地元・福岡県の素材を生かした酒造りが特徴としているので、今回使用したサツマイモについても福岡県産の紅はるかを使用しています。

当初は、おイモを使った濁り酒のようなものを考えたのですが、もっとおイモの甘みや香りなど繊細な部分を引き出したものにしたいという要望を出しました。その結果、発酵の進み具合で開栓後にも味の変化を楽しめる生酒を目指すかたちになりました。いわゆる「火入れ」という加熱処理の工程を行えば、発酵が止まり、味は安定するのですが、飲むタイミングで味わいが変わっていく体験の面白さも重視したかったからです。

開発過程では、おイモならではの香りや甘さを引き出すのに試行錯誤があったと聞いています。おイモの良さを壊さないまま、いかにクラフトサケとして成立させるか。酒造りで、おイモをいつ投入するか、皮ごと入れるか。焼いてから入れるか、いや蒸した方がいいのか、などを模索していただきました。


――最終的には、どのように完成させていったのでしょうか。

味わいがお酒に乗りやすいということで、最終的にはおイモをペースト状にして投入するやり方が採用になりました。また、おイモの皮を加えるのを避けたことで小豆の香りが際立ち、見た目も華やかな透き通った黄金色に仕上がりました。

リブロムさんにとっても、おイモと小豆はいずれも扱ったことがない素材だったそうで、知り合いの福岡県内の和菓子店に協力をいただいたそうです。和菓子作りの工程で出た煮汁が最も小豆らしい香りが表現しやすいということに行き着き、その煮汁を採用しているとのことです。

おイモのみだと芋焼酎などとの差別化が難しかったと思いますが、小豆が加わることで、豊かな個性が生まれ、なかなか世の中にない、めずらしいお酒が出来上がったと思っています。

生酒のため、開栓直後はちょっとシュワシュワした感じも楽しめますし、その後は時間と共によりまろやかになったり、温度によって口当たりがやわらかくなったりと表情豊かなお酒が誕生しました。

おすすめの飲み方や合うメニューは

――完成した「おいもとあずき」ですが、パッケージもかわいらしい仕上がりになっていますね。

元々、映像関係のCGデザイナーをしていたので、私自身でデザインを担当しました。全国にはいきなり団子のことを知らない人もいると思うので、いきなり団子の素朴なかわいさを残しつつ、手に取ってもらいやすい親しみやすいデザインを心がけました。


――酒店「Sake Street」のオンラインストアで販売がスタートし、へなちょこでも11月から店内での提供が始まったとうかがっています。反響はありますか。

本当にありがたいことに、最初は日本酒好きの方々に興味を持っていただいて、発売直後から予想を上回る本数を購入していただいています。お店で出すと、驚かれたり、興味を持ってもらったりして率直に嬉しいです。「口あたりがやわらかい」「(おイモの甘みで)丸みのあるお酒だね」とか、感想を聞かせてもらうのも楽しいです。


――「おいもとあずき」のおすすめの飲み方やペアリングによいメニューを教えてください。

保存は要冷蔵なのですが、冷やしても温めても、お好みの飲み方で楽しんでいただければと思います。へなちょことしてのおすすめは、レンジで適度に温めてもらうと、いきなり団子のような、おイモの甘みや小豆の香りを楽しんでもらえると思います。電子レンジで常温のお酒を温める場合は、熱燗なら60秒ほど、ぬる燗なら50秒ほどをおすすめします。

ペアリングにおすすめなのは、やはり、しょうゆベースの煮物が合いますね。あと、意外と油を切ってくれるので、肉料理と合わせても良いと思います。

それから、面白いところだと、あんこを使った和菓子全般とはよく合います。個人的には「鉄板」とも言える手ごたえを感じています。ちょっと温めてもらってから、一緒に味わってもらうと、香りや甘みが引き立ち、楽しんでもらえると思います。


世の中にないお酒「プレゼントにも」

――おイモを使ったユニークなお酒が出来上がりました。どのような方々に届けていきたいですか。

へなちょこというお店は元々、私と夫が日本酒好きだったことが原点にあり、結婚や出産を経て、子どもが生まれた後、カジュアルに日本酒が飲める場所がなかったことから、「自分たちでつくってしまおう」と2020年にオープンしました。


週ごとに新たなお酒を追加しながら、多様な日本酒の魅力を伝えることを目標に営業しています。クラフトサケは日本酒と異なりますが、今回、リブロムさんとつくり上げた「おいもとあずき」によって、また一つ、お酒の新たな魅力をつくり出せたのではないか、と考えています。

ただ、それをお酒好きの間だけで盛り上がるのではなく、おイモファンをはじめ、先ほどペアリングで合うとお伝えした和菓子好きの人なども含め、もっと幅広く多くの方々に「おいもとあずき」を知ってもらって、日常の中で楽しんでもらえれば、と願っています。

――最後に読者にメッセージをお願いします。

いきなり団子をイメージした、なかなか世の中にないお酒なので、話題として面白いですし、プレゼントでも喜んでもらえるのではないかと考えます。年末年始で人が集まる場でも盛り上がると思いますので、ぜひ味わってもらいたいです。それから、何といっても、いきなり団子なので、熊本県の方々にも味わっていただきたいですね。

もちろん、いきなり団子を食べながら飲んでいただくのも、楽しい体験になるのではないでしょうか。多くの方々に思い思いの楽しみ方で味わってもらえれば、と思います。

西荻窪 日本酒バー へなちょこ
◆住所
東京都杉並区西荻北2-1-8 佐竹コーポ 1F

◆電話
050-7120-8644

◆営業時間
金曜日18:00~22:00
土・日曜日13:00~21:00
ラストオーダーは閉店30分前

◆定休日
月、火、水、木曜日

◆席数 
全12席 
全席禁煙、個室(最大4人)1室