南九州の「サツマイモ経済圏」を守るために SSPの視点と活動


焼酎にまつわる現状に理解を深める「そつのんごろカレッジ2024」(主催・焼酎ツーリズム実行委員会)と題したイベントが2月12日、鹿児島県いちき串木野市で開かれた。前日に同市などの焼酎蔵を訪ねてまわる「焼酎ツーリズムかごしま」もあり、そのスピンオフイベントとして開催。焼酎ツーリズムの振り返りや専門家などによる研究発表などとあわせ、「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」の知見集積などを目的とした産学連携コンソーシアム「みんなのサツマイモを守るプロジェクト-Save The Sweet Potato-」(SSP)の講演も行われた。【寄稿・みんなのサツマイモを守るプロジェクト、構成・さつまいもニュースONLINE】

【SSPとは?】特集 現場の声集め、産学連携の力で「サツマイモ基腐病」に挑む


「基腐病を知っていますか?」

そつのんごろカレッジのプログラムの一つとして、SSPは「さつまいも市況・基腐病と対策・生産者の現状」をテーマに講演を実施。

SSPを立ち上げた農園芸イノベーションカンパニーの「welzo」(福岡市博多区)取締役の後藤基文氏と、同社アグリビジネス課次長の古賀正治氏が登場。SSPメンバーの曽根圭輔氏(「I-NNO」CEO)を進行役を務めた。


「サツマイモ基腐病を知っていますか?」――。冒頭、曽根氏が参加者に投げかけると、「聞いたことはある」などといった反応が会場に集まった人から多く示された。

以前、SSPが都内でシンポジウムを開催した際には基腐病を知る人がほとんどおらず、参加者の地元産業に対する関心の高さがうかがわれた。

サツマイモ基腐病は2019年以降、南九州エリアのサツマイモ生産地を中心に感染が拡大した。現在は日本国内のほとんどの都道府県で基腐病の発症が確認されている。

病害に弱いコガネセンガン

この病害には強い品種と弱い品種があり、青果用や加工用とされる品種と比べ、焼酎や芋けんぴなどの原料として用いられる「コガネセンガン」という品種は、特に基腐病に弱いといわれている。

みんなのサツマイモを守るプロジェクトの資料から

講演では、「病害のリスクの高いコガネセンガンを生産するのを辞めてしまう農家さんが増えてきている」といった指摘も上がった。せっかく栽培したサツマイモが病気で出荷できなくなっては農業が立ち行かないため、基腐病に強い品種を選択する農家も多いという。

芋焼酎や芋けんぴをつくる上では、原料のサツマイモの品種は重要な要素といわれる。

後藤氏は「別の品種を使えば、商品の味や風味は変わってしまう場合も多い。焼酎メーカーも加工食品メーカーも、消費者によい商品を届けることを考えると簡単には品種変更に踏み切れないと悩んでいる」と述べた。

失われた?「300億円市場」

さらに「焼酎メーカーの生産量ベースで3500万本、売上高ベース換算で約300億円もの市場が失われた」とする推計についても解説。

2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による飲食業界全体の影響も大きく、基腐病による芋焼酎産業への影響がそれほど目立たなかったが、九州エリアのサツマイモ農家や焼酎メーカーにとっては「非常に大きな事件だった」と語った。

「サツマイモ基腐病が拡大することは、焼酎メーカーや加工食品メーカーなどにも影響を及ぼす」と後藤氏。とりわけ南九州ではサツマイモが地域経済に大きく関連しており、SSPではこれを「サツマイモ経済圏」と呼んでいる。後藤氏は「この経済圏全体を守っていく必要がある」と強調した。

「サツマイモ経済圏」を守るために

鹿児島県は、これまでサツマイモ生産量では長年日本の中で圧倒的1位を保ってきた。しかし、例えば2017年産が28万2千トンだったのに対し、近年は21年産が20万トンを割り込み、19万600トンまで落ち込むなど生産量の減少が目立つ。

一方、基腐病の被害がまだ限定的とされる茨城県は、サツマイモブームもあり生産量を伸ばしており(22年産が約19万4300トン)、生産量はかなり拮抗(きっこう)してきている。

みんなのサツマイモを守るプロジェクトの資料から

そうした現状も踏まえ、南九州のサツマイモ経済圏を守ることを活動の柱に据えるSSPの活動も紹介。生産現場の状況を広く社会に伝える広報活動や、サツマイモ製品への応援需要の喚起を目指した活動に取り組んでいることなどを説明した。

また、公式ウェブサイトなどを通じた情報発信にも言及。生産者に取材した生の声などを紹介しており、今後はさらに、生産者どうしの情報交換の場としても機能させていきたい考えを後藤氏が明かした。

基腐病に対する3つのアプローチ

古賀氏は、サツマイモ基腐病に対処するための3つのアプローチについて解説。生産圃(ほ)場の「排水性の向上」「土壌の改良」「病害に耐性のある品種開発」の3つのアプローチが、有効な基腐病対策になる、とした。

サツマイモは元々、連作(同じ土地で毎年同じ作物をつくること)が多く、土壌の栄養分や微生物のバランスなどが偏ってしまいやすい。そのため、「病原菌が入ってきたときに感染も広がりやすい」と古賀氏は指摘。

この数年間、さまざまな基腐病対策について多くの生産者などからヒアリングを重ねた結果、「土壌改良が病気対策にも収穫量増加にももっとも効果が期待できる」と話した。


また、品種開発については、SSPに参画しているバイオベンチャー企業や大学などが研究開発を進めているという。「病気にも強く、おいしい芋焼酎の原料にもなるような品種をつくり、芋焼酎の文化を後世にも残していきたい」と古賀氏は力を込めた。

「焼酎ツーリズム」には200人参加

そつのんごろカレッジではこのほか、「焼酎ツーリズムかごしま」に参加した酒蔵4社の杜氏らによるトークセッションや、山梨県でワインツーリズムを長年運営している「ワインツーリズム」の大木氏による講演なども行われた。

また、焼酎ツーリズムかごしまでは、日置市やいちき串木野市にある焼酎の9つの蔵元をバスで巡り、県内外からおよそ200人が参加した。

SSPの最新情報はこちらhttps://www.savethesweetpotato.com/